游々生薬街 大連(中国) 2025
7月下旬に二泊三日で中国の大連を訪ねた。
領事事務所に勤務する友人のお誘いがあったのと、妻の祖父が大連の横浜正金銀行に勤務し義父も大連で生まれ育ったという縁の場所でもあったからだ。
昼過ぎに到着するやいなや友人のエスコートで現存する旧満州(関東州)の建物のいくつかを訪ねた。ロシアの都市計画を受け継ぎ約40年の間に日本が建築した銀行・病院・学校・百貨店などが高層ビルの合間に保存され有効利用されている。高層階のラウンジからは大連港が見渡せ、旧商業地域「連鎖街」はサザンオールスターズの楽曲「流れる雲を追いかけて」に歌われ、松任谷由実には「大連慕情」があることを知った。
旅の楽しみの一つが食事である。「食は中国にあり」「医食同源」。机以外の四つ足の物、飛行機以外の空飛ぶ物、そして潜水艦以外の泳ぐ物は何でも食べると言われる?
大連の海産物で気になっていたものがあった。「海腸(ユムシ)」と呼ばれる海の巨大ミミズの様を呈する生き物である。ウニと並ぶ高級食材とか。
友人御用達のレストランで乗り気でない友人をよそ眼に「海腸撈飯(ユムシ餡かけご飯)」を注文。抜群の濃厚な出汁とコリコリした触感に舌鼓を打った。多分日本では滅多に口にすることのできない素材であろう。大連を訪れることがあったら是非ご堪能あれ。
ミミズは漢方では「地龍(じりゅう)」という立派な薬材である。「補陽還五湯(ほようかんごとう)」と呼ばれ脳卒中の後遺症である麻痺やシビレに効くとされる処方の構成薬物で、血管や細胞の末端に溜まった老廃物を取り除き機能を回復させる。私も「海腸撈飯」のお陰で老いぼれた頭が少し冴えたような。気のせいか?
有名な漢方薬局チェーン同仁堂を訪れ、実験的に使うため事前に友人を通じて頼んでおいた少量の漢方材料を入手した。
こじんまりした薬局には中医学の祖である張仲景、孫思邈、華佗、李時珍の額が掲げられ、女性職員二人が親切に応対してくれた。
空港や市内の公共施設等に温水・熱水の給湯機が設置されマイボトルで持ち歩けるようになっている様子が目を引いた。漢方医学では体を冷やす飲み物食べ物への戒めがある。熱はエネルギーであり生命力でもある。胃は食物を煮て栄養を吸収して身体を維持する。胃の冷による下痢、食欲不振、元気低下は誰もが経験する。体温の低下は免疫力の低下につながり、人は最後は冷たくなって死ぬ。色々な場所で手軽にお湯を手に入れられるのは伝統的な国民の健康への配慮なのかもしれない。特に冷たい飲み物を摂りがちなこの季節こそ学びたい習慣だと思った。
ホテルの前に拡がる労働公園という大きな公園へ早朝の散歩に出かけると大勢の人が散歩、ジョギング、ダンス、器具を使った体操にと汗を流しており、ここでも健康志向の高いお国柄を感じた。
昨年の中国は筆談と翻訳アプリ頼りだったが、今回は友人のお陰で初めて色々な中国の方と近い距離で交流することができた。
国は違えど人はそんなには変わらない。また必ず訪れたい気持ちになった。